経済産業省が定めた「受託中小企業振興基準」が、令和8年1月1日から本格施行されます。
これは下請中小企業振興法に基づき、取引ルールを包括的に整備したもので、発注内容の明確化、価格交渉の義務化、手形利用の制限など、下請けビジネスに関わる中小企業にとって極めて重要な内容です。
特に、大企業との取引において交渉力に不安を抱える企業こそ、この基準を活用することで取引の「見える化」や「利益確保」が実現可能になります。
従来、電話一本や口頭での発注で済ませていた中小企業も多いでしょう。
しかし新基準では、取引継続の際には基本契約を結ぶことが前提とされ、納期・価格・支払方法・仕様変更の費用などを事前に書面(メール等含む)で明示する必要があります。
これにより「言った言わない」のトラブルを防ぎ、納期短縮や発注変更に伴うコストも正当に請求できる道が開けます。
契約書は交渉力の証しであり、経営を守る盾になるのです。
特筆すべきは、年に2回(3月・9月)の価格交渉促進月間の導入です。
原材料費・人件費・電気代などのコストが上昇した場合には、発注元との価格交渉を申請し、協議記録を残すことが求められます。
労務費の転嫁も対象となるため、最低賃金引上げ後の価格改定が通りやすくなります。
今後、下請企業が「物申す」ことは権利として明確化され、「泣き寝入りしない経営」が求められます。
この新基準は単なるルール集ではなく、「パートナーシップ構築宣言」や「振興事業計画」といった攻めの制度活用を促しています。
たとえば、複数社で連携しサプライチェーンの川上に進出する「特定連携事業」は、大企業依存から脱却する実効性のある手段です。
また、BCP(事業継続計画)や事業承継支援、電子受発注など、将来を見据えた中小企業の“経営力強化”を後押しする支援制度とも直結しています。
新基準の理解は、下請けに留まらない未来戦略の第一歩となります。